旧五十嵐邸とジャズのお話

蒲原宿のシンボルとなっている国登録有形文化財・旧五十嵐歯科医院(旧五十嵐邸)。
そして、蒲原出身のギタリストが活躍するジャズバンドをご紹介。

冬暖かく、夏は風が気持ちいい2階診療室。

モダン建築の人気歯科医院

東海道蒲原宿を歩いていると、江戸時代の旅籠や本陣跡の黒塀など、古い建造物にしばしば出合う。そんな中ひと際目を引くのが、旧五十嵐邸だ。大正3(1914)年頃、東京で歯科医の勉強を終えた五十嵐準氏が歯科医院を開業するため、町家を洋風に改築。「1階は住まいで、2階が診療室や待合室、中庭を挟んだもう1棟は、遠方からの患者さんの宿泊施設でした」。そう説明してくれたのは、旧五十嵐邸を管理している〝NPO法人旧五十嵐邸を考える会〟理事長の辻祐子さん。泊まりがけで来る患者さんがいたとは、五十嵐先生は随分腕が良かったようだ。南に面した診療室は窓が広く設けられ、病院とは思えない開放感!当時はさぞかしモダンな建物に注目が集まったことだろう。大正7年に彫られた緻密な欄間は、NHK〝美の壺〟で取り上げられたほど。 館内ではイベントも開催しており、3月1日(水)から4月9日(日)まではいろいろな時代のお雛様を展示。一年でもっとも華やかなこの時期、蒲原宿と合わせて散策してみては。

昨年、よし川でのライヴの様子。お座敷で座椅子に座って聴くというレアなシチュエーション。

女将が惚れたジャズバンド

「同級生がジルデコのことを教えてくれたのよ。初めてライブを見たのが3年前。蒲原出身でこんなに才能ある子がいるなんてうれしいわよねぇ」とジルデコ愛を語ってくれたのは、よし川(P42参照)の二代目女将・吉川千鶴子さん。ジルデコとは、ジャズバンド、ジルデコ・アソシエーションのこと。ギタリストのkubotaさんは蒲原生まれ、蒲原育ち。みかん畑で野球をして怒られていた少年は、大学卒業後ニューヨークでジャズを学び、プロになった。帰国後拠点を東京に構え、2002年にヴォーカルのchihiRoさん、ドラムのtowadaさんとジルデコを結成。今回、ラジオ出演のため静岡に来ていたkubotaさんとchihiRoさんに、思いがけず会うことができた。「子供も大人も楽しめる音楽にしたくて」。chihiRoさんが言うとおり、ポップスを取り入れた楽曲は耳に気持ちよく届く。
iTunes Storeで配信した作品の複数はジャズチャートで1位を獲得。だが、そんな彼らに昨年ピンチが訪れた。日曜21時にオンエアしているK-mixの番組が、終了の危機にさらされたのだ。そこで立ち上がったのが、吉川さん。地元企業㈱コーヨー化成と㈱カネジョウ(P40参照)に声を掛け、3社でスポンサーに手を挙げた。その甲斐あって、番組は継続。「静岡とのつながりを切りたくなかったので、感謝の言葉しかありません」とkubotaさん。2月に11枚目となるアルバム〝ジルデコ7~voyage~〟をリリースし、現在全国ツアー中のジルデコ。よし川でのライヴは先日終わったところだが、今後も開催していくそう。
蒲原を出て活躍する人、それを応援する蒲原の人。そんな相思相愛の関係によって、今後静岡のジャズライフはより充実していきそうだ。