180有余年前、
江戸の絵師・歌川広重がドラマチックに描いた興津・由比・蒲原。

かごと馬に乗った力士が川を渡る興津宿に
薩埵峠から富士を望み、旅人が帆掛け船を眺める由比宿と
雪の上を笠をかけた人々が往来する蒲原宿。

ロマンの詰まった浮世絵に、今を重ねたくて僕は出かけた。

取材をはじめた1月。マフラーをぐるりと巻き
僕らはバイパスを東に進んだ。
晴天の午前中、最初に訪ねたのは薩埵峠。
まぶしい青、凜とそびえ立つ雲をまとった富士山。
この景色をいつまでもいつまでも見ていたかった。

かつてここを歩いた旅人も、こんな気持ちになったのだろうか。

そして2月。取材を終えても僕はまた、
この景色と取材で出会ったあの人たちに会いたくなっている。

来たる3月。春の到来とともに再びこの場所へ赴くだろう。
広重が描かなかった桜色に染まる宿場を見に行くために。
ドラマチックな春が、さあ始まる。